バイオ3Dプリンタによる再生医療の最先端!NEDOの支援から上場に至る道のり/株式会社サイフューズ
「細胞(Cyto)が融合(Fusion)すること」を社名とする株式会社サイフューズ(Cyfuse)は、「再生医療」「細胞製品による創薬支援」「バイオ3Dプリンタなどのデバイス開発および販売」の3つを主な事業とするディープテックのスタートアップ企業です。
創業した2010年、NEDOの「橋渡し促進技術開発」に九州大学と共同で採択。以降、順調に事業を拡大し、2022年12月には東京証券取引所グロース市場に新規上場しました。
創業から上場に至るまでにNEDOが果たした役割について、同社代表取締役の秋枝静香氏、取締役 CFO 経営管理部長の三條真弘氏に伺いました。
左 )NEDOイノベーション推進部長 吉田 剛
中央)株式会社サイフューズ 代表取締役 秋枝静香さん
右 )同 取締役CFO経理管理部長 三條真弘さん
ヒトの体の細胞だけで立体的な臓器を作る
NEDO吉田)まず貴社の事業・製品・サービスの概要から伺えますでしょうか。
秋枝さん)事業は創業当初から変わらず、「バイオ3Dプリンタ」と呼ばれる細胞版の3Dプリンタを用いて立体的な組織・臓器を開発しています。バイオ3Dプリンティングの技術をベースにヒトの体の細胞だけで移植可能な組織・臓器を開発し、患者様に再生医療等製品としてお届けすることを目指しています。現在は開発したバイオ3Dプリンタも販売しながら、少しずつ売り上げを積み上げている状況です。
NEDO吉田)秋枝代表は研究者から経営者になられたわけですが、大きな決断、ご苦労があったと思います。
秋枝さん)決断と覚悟でしょうか。当時はバトンが回ってきて「もうやるしかない」という状況でした。立場が変わり責務は大きくなりましたが、創業初期の頃から役員会等にも参加させて頂いておりましたので、業務的には徐々にやる仕事が増えてきたという感覚です。周りのサポートのお陰で、今があり、とても感謝しています。
NEDO吉田)多くの大学発スタートアップが、経営メンバー探しやチームビルディングに苦労されています。貴社はどのように取り組んでこられたのですか。
秋枝さん)九州で私を含めて3人で会社を立ち上げ、その後3人が加わってNEDOのプロジェクトを3年間遂行しました。4年目からはベンチャーキャピタル様から御支援頂き、東京にもラボを構え、少しずつ人材を増やしてきました。現在、社員は22名ですが、再生医療に共感する方々に来ていただき、段々と「チームビルディング」が出来てきている状況です。
コンソーシアム(共同事業体)制の大きな活動はスタートアップにとってありがたい
NEDO吉田)現在はAMED(エイメド:国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)の支援で血管・骨軟骨・神経を開発されていて、臨床試験の段階なのですね。実は、私の義理の母も膝軟骨に問題があり、痛い思いをしてきました。そうした人たちは、再生医療をいつになったら受けられるのか、大変関心があると思うのですが。
秋枝さん)再生医療に大きな期待が寄せられていることは日々実感しております。現在、AMED等からの御支援も受け開発を進めておりますが、まずは2025年頃の承認申請を目指して臨床開発に取り組んでいます。行政機関や医療機関と歩調を合わせ、広く国民の皆様に「医療」として安心・安全な再生医療をお届けできる仕組みを作りたいと考えています。
NEDO吉田)再生医療を受けられるようになるには、政府、医療業界など多くのステークホルダーが取り組むべき課題があると想像するのですが、いかがでしょうか。
秋枝さん)再生医療自体まだ新しい医療分野であり、これから市場を構築していく段階にあること、また、再生医療等製品は細胞という「生もの」を加工して製造し、医療機関にお届けすることから、当社1社だけでは医療として広く患者様にお届けすることは難しい状況です。現在、本当に多くの企業様にお力添えをいただいて、事業活動を加速している状況です。「餅は餅屋」と言いますか、例えば細胞を増やす工程は、藤森工業様と、細胞を凍結する工程は、岩谷産業様と協業し、開発を加速させております。
NEDO吉田)NEDOはJOIC(オープンイノベーション創造協議会)※1の事務局も務めているのですが、医療の世界は、かなりオープンイノベーションが進んでいるように見えます。
秋枝さん)そうですね。ただ、それは突然発生するものではなく、先述の藤森工業様とも2014年からスタートしたNEDO/AMED事業のコンソーシアム(共同事業体)でご一緒させていただいたのがきっかけです。現在の協業に至るまでには、数年間、しっかりと実務をこなし、目標を確認しつつ、共同研究~共同開発~業務提携へと進めて行きました。
NEDO吉田)そうしたお話が聞けてよかったです。我々としては、やはり一社単独ではなく、できるだけ大学や事業会社も巻き込んでプロジェクトを進めたいと考えていますので。
秋枝さん)その試みは実を結んでいると思います。現在もAMED事業のコンソーシアムに参画させて頂いておりますが、アカデミアを中心に、30社近くの企業が集まり、様々な方面から多様な深い議論が交わされ、そして、ネットワークが広がっています。コンソーシアム制の大きな活動は、スタートアップにとっては本当にありがたいものです。
NEDO吉田)令和4年度補正予算で、NEDOは1,000億円のディープテック・スタートアップ支援事業(基金)※2を行うこととなり、最長6年、30億円上限の補助を行えることになりました。残念ながら未上場企業が対象ではありますが、この事業についてコメントいただけますでしょうか。
秋枝さん)長期的にご支援いたただける事業はとても有難いと思います。創業当初のNEDO事業終了後、「改良したいけど開発費用がない」という時期もあり、苦労したこともありましたので、開発のフォローアップまで含めて、少し長期的にご支援いただけると、企業側、特にスタートアップ企業は非常に助かると思います
「自走」できるところまで公的機関がサポートしてくれるとよい
NEDO吉田)2015年には北米でバイオ3Dプリンタの販売を開始されていますね。
秋枝さん)はい。共同研究先を中心にバイオ3Dプリンタをインストールさせて頂いており、技術普及と共にパイプライン開発を一緒に行っていくスタイルで販売しています。
NEDO吉田)先述した基金事業では、海外実証もできるようになりました。いま伺った共同研究などの費用をそこから賄えると、提携先を確保しやすいように感じたのですが。
秋枝さん)大変助かると思います。海外でのプロジェクトをいちからすべて自分達で立ち上げるとなると、大きな負荷がかかります。各種ドキュメントの準備やデバイスの輸出、提携先でのインストール作業やトレーニング等、スタートアップ企業にとっては限られたリソースで様々な業務を行わなければならないため、費用の面のみならず現地でのサポートもいただけるとありがたいです。
NEDO吉田)今後はグローバル展開を考えておられるとのことですが。
秋枝さん)現在はまだ仕込みの段階ではありますが、今後徐々に展開し、当社の技術・製品をグローバルに展開して、世界中の患者様に少しでも貢献していきたいと考えています。
NEDO吉田)企業のグローバル展開はJETRO(ジェトロ:日本貿易振興機構)の得意なところですが、実際に連携されているのですか?
秋枝さん)はい、アメリカやヨーロッパでの活動において、JETROのご支援を頂いており、様々な連携を頂いています。
NEDO吉田)そうした中で、恐らく貴社の立場からすると、「公的機関がもっと連携して支援してくれれば」との思いもあるのではと想像するのですが、いかがでしょうか。
秋枝さん)当社は、JSTさん(国立研究開発法人科学技術振興機構)のフィジビリティスタディ(事業検証プログラム)を通じて会社を立ち上げ、創業間もなく3年間をNEDOさんに支えいただきました。その後、臨床開発をAMEDさんに支えて頂いており、有難いことに途切れなく厚くサポートいただいています。
NEDO吉田)現在、JST、AMED、NEDOなどの政府系機関はスタートアップ支援の連携を目的とした「Plus “Platform for unified support for startups”※3」という取り組みを行っておりますが、実際はうまくつながらないケースもあります。NEDOとしては、もう少し積極的に「AMEDのこの事業が向いてますよ」というようなご紹介を進められたら、という思いがあります。
秋枝さん)確かに、それはありがたいですね。逆も然りで、例えば再生医療の製品ができたときに、再度NEDOさんのサポートでグローバル展開するなど、提携時の基盤整備も含めてサポートいただけると、とても嬉しいですね。また、スタートアップ企業としては、規定ひとつとっても、整備することは大変です。社内外の活動において、創業間もない頃からNEDOさんにサポート頂けたことは大変有難かったです。
三條さん)特に帳票の考え方などは、一般的な日常業務をやりながら現場に教えていくというよりは、NEDOのようなプロジェクトで実際に期限が設けられていて、それまでにきちんと収支報告を行うことの重要性を最初にきっちり説明できるということは、スタートアップの管理部門立ち上げ時にはすごく貴重な経験となりました。
秋枝さん)例えば、社内規定は、最初緩くて後から厳しくすることは大変ですが、最初を厳しくしておいて後から緩めることは容易です。そのような意味でも創業当初にNEDOさんからのアドバイスをもとに構築していった規定類、考え方等は今でもとても重宝しています。
三條さん)一般的なメニューの研修を設定するだけでは、なんとなく座学で聞いて終わってしまうことも多いかもしれません。その点、NEDOの研修などは実践的で分かりやすかったので、研究開発部門だけではなく、全社的に使わせていただきました。このように研究開発に対する支援だけではない、スタートアップにとって様々な現場感を養っていくのに必要な部分までをサポートいただけるのはありがたいです。
秋枝さん)欲を言うならば、バイオ・ライフサイエンス企業のラボの施設なども政府機関からご紹介いただけると嬉しいです。当社のようなバイオ企業の場合、一般的なオフィスビルにラボを構えるのは結構大変で、大学のラボから独り立ちするにあたりとても苦労しました。
三條さん)本当は、完全自走するところまで様々な側面でサポートいただけるととてもありがたいです。弊社で言えば、NEDOプライベートピッチで商工中金につないでいただいたおかげで、自社運営の施設を構築する際に金融機関からのサポートを受けることができました。このような流れが制度と付随してもっと整備されていくとよいのではないでしょうか。
秋枝さん)その意味で、先程の基金が未上場企業に限られるのは、少し寂しいですね。上場後の企業にもサポートがあると有難いです。
三條さん)上場か未上場ではなく、例えば、ディープテックやプラットフォームが実用化する前と後で区切ってもらえたらという思いなどはあります。やはり弊社も、経営が軌道に乗るまでは厳しかったので。
NEDO吉田)そうですよね。今後の改善事項として検討させていただきます。
NEDOのサポートに組み込まれることで「組織としての基礎体力」が上がる
NEDO吉田)最後になりますが、このコーナーの読者は多くが研究開発型スタートアップです。後進のために、初期段階でやっておくべきことなどアドバイスがありましたら、お願いします。
秋枝さん)ベースとなる技術を確立させることはもちろんですが、知財戦略や資本政策は初期の段階からしっかりと取り組んでおくべき事項と思います。また、創業時のマインド、想いを共感できる人材の育成・確保も重要だと感じています。
三條さん)NEDOのような外部の専門機関にアプローチして、自社の技術や研究をアピールして、プログラムに参加していくこと自体が、開発型のスタートアップにとっては有効な進め方の1つであると思います。サポートプログラムの中に、立ち上がったばかりの会社が組み込まれることで、組織としての基礎体力が上がりますから。プログラムの申請時には、「締め切りになんとか間に合わせなければ~」とある意味追い込まれる状況があるかもしれませんが、そういう状況の中で策定した計画は精度や密度が高いものとなるでしょうし、また、机上で考えているだけでなく、プログラムが進捗していく中で、事業として進めていく上で必要な視点やヒントを実際に身に着けていくことになる点でも、良い経験になったと思います。そのような意味で、単に支援を受けるにとどまらず、うまく自社の事業の促進に活用してもらえるとより意義が増してくると思います。
関連プロジェクト
※1 JOIC(オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会)
民間事業者の「オープンイノベーション」の取組を推進するとともに、「ベンチャー宣言」を実現することにより、我が国産業のイノベーションの創出及び競争力の強化に寄与する活動を行っています。
※2 ディープテック・スタートアップ支援基金/ディープテック・スタートアップ支援事業
ディープテック・スタートアップを対象とした本事業は、VC等との協調やステージゲート審査の活用を盛り込み、実用化研究開発や量産化実証、海外技術実証などへの支援を行います。公募は通年で実施し、年4回程度、提案受付期間及び審査の実施を予定しています。(第一回提案受付は2023年5月25日正午まで)
※3 Plus ( Platform for unified support for startups )
NEDOを含む政府系16機関は、スタートアップ支援を目的として、「スタートアップ・エコシステムの形成に向けた支援に関する協定書」を締結し、スタートアップ支援に関するプラットフォーム「Plus(プラス)」を創設いたしました。
その一環として、ワンストップ相談窓口”Plus One(プラスワン)”を、NEDOにおいて運用いたします。政府系支援制度の活用を検討しているが、どの事業が対象なのかわからない方などのお悩みにお応えします。
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