左)サスメド株式会社代表取締役社長 上野 太郎さん 右)NEDOイノベーション推進部長 吉田 剛
吉田) まず、貴社の事業概要やビジネスモデルについてお聞かせいただけますか。 上野さん) 不眠症などの治療用のアプリを医療機器として開発しています。ヘルスケアではなく、医療産業の中で承認いただくものとして開発していることがポイントです。もう一点、治験の課題に対するブロックチェーンの活用についても、NEDOの支援をいただきながらチャレンジしています。 吉田) 治療用アプリは、どのようなビジネスモデルとなるのですか。 上野さん) 医薬品や医療機器と同じです。私共は医療機器の製造販売業として、医療機関に対してアプリを提供します。そして、基本的には医師が患者さんに対して治療行為としてアプリを「処方」します。ですから、お金の流れとしては患者さんが自己負担で3割を支払い、残りの7割については保険者から支払われます。その医療機関の収益からアプリの費用をいただくというモデルです。 吉田) 医療ビジネスは、保険適用がなされるのか否かが重要と考えます。治療用アプリについてはアメリカで先行例があったため、日本でもそれが認められるという読みで開発されたのですか。 上野さん) はい、もともと2014年の時点でアプリ単体でも医療機器になるということは、薬機法の改正で規定されていました。ただ、アプリに対して保険点数の枠が作られたのは、実は2022年の診療報酬改定です。 吉田) ソフトウェアが医療機器として認められたこと自体が画期的だと思います。貴社を含む日本の治療用アプリに関わる複数企業が、2019年に「日本デジタルセラピューティクス推進研究会」という組織を作られていますね。 上野さん) 今は「日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)」という組織になっています。治療用アプリに注目する事業者が、研究会という形で立ち上げたものです。 吉田) そこでの議論や研究成果は厚生労働省にフィードバックされているのですか。 上野さん) はい、例えば「海外ではこうした産業が既に立ち上がっている」といった情報をフィードバックさせていただいています。
吉田)上野さんは、薬機法のハードルがなく比較的早めに収益を上げられるヘルスケア事業と、治療用アプリという医療機器の2つの可能性があったと思います。後者に絞っていくことは、お一人で決断されたのですか。出資者によっては「まずキャッシュポイントありき」という話もあったと思うのですが。 上野さん) NEDO TCP(起業意識のある研究者等を支援するためのプログラム) の研修では「あったらいいな(Nice to have)ではダメです。無いと困る(Must to have)ものを作りましょう」という言葉が印象に残っています。投資家を選ぶ際も、早期にマネタイズできる事業を求めるベンチャーキャピタルもある中で、現在のパートナーからは「ディープテックで社会的インパクトのあることをやりましょう」と言ってもらえました。 吉田)医療分野は規制が強く、スタートアップのハードルは高いと思うのですが、どのように対応されたのでしょうか。お話を伺っていると、ネットワークの広げ方がうまいとの印象です。 上野さん)そうですね、例えば薬事については、製薬メーカーで治験業務を経験してきたメンバーが弊社にジョインしてくれています。社外アドバイザーについても、私共のビジョンを理解いただいた上で、多くの方に助けていただいています。 吉田)NEDOとしては、デジタル医療のトップランナーの皆さんを採択できて良かったと思っています。 上野さん)NEDOにつきましては、先ほど触れたTCPに始まり、SUI(企業化可能性調査等の実施)、STS(シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援) 、SCA(企業間連携スタートアップに対する事業化支援)とフル活用させていただいています。NEDOがなかったら、弊社は今の状態ではなかったでしょう。 吉田)NEDOとしては「補助金で経営者が研究に専念できる」「資金集めに奔走しなくて済む」という部分はアピールしていきたいです。補助金のメリットについては、どのように感じておられますか。 上野さん) 起業時を振り返ると、まだディープテックはベンチャーキャピタルも手を出したがらない分野で、資金調達の選択肢もさほどありませんでした。その中でNEDOの補助金をいただくことで、研究開発を深掘っていくことができたと思っています。
吉田) このコーナーの読者は多くが研究開発型スタートアップで、起業前・起業直後と思うのですが、後続のスタートアップのために「初期段階でこれをやっておくべき」といったアドバイスがありましたら、お願いします。 上野さん) 知財戦略と資本政策ですね、そうした部分は後戻りできないので、早くから重要性を分かっておく必要があると思います。私はTCPの研修で知財やファイナンスの大切さを学ばせていただいたとことが、ありがたかったです。 吉田) ただ実地となると、またハードル上がりますよね。そこはアドバイザーに具体的に相談しなければなりませんから。 上野さん) はい、知識だけで動いているわけではないです。私もベンチャーを経営する中で、本から学ぶことはありますが、その時は「ふうん」と思っても、やはり課題に直面しないと「そういうことだったのか」と肚に落ちない部分はあります。そうした際に相談できる人のネットワークを広げていくのは重要だと思います。 吉田) 資本政策について相談相手を見つけるのはなかなか難しいと思います。いきなりベンチャーキャピタルに相談するわけにもいきませんからね。どのようなアドバイザーを、どう見つけたのですか。 上野さん) NEDOのネットワークにはいろいろな人がいるので、多くの人のお話が聞けたのはありがたかったです。特に私共は、元々アカデミアの身分を捨てて社会実装のためにリスクを取ってやっています。投資する側がこちらの姿勢を理解してくれるかどうかは、重要でした。 吉田) 今後、ビジネスのポートフォリオはどのようになっていきますか。 上野さん) 不眠症の治療用アプリは現在承認申請をしていますので、認可されればそこから売り上げが立っていきます。一方のブロックチェーンについては、もうシステム自体はできていて規制もクリアしていますので、あとはいかに活用事例を増やしていくかというステータスです。 吉田) 例えば貴社が海外のマーケットを狙いにいく際は、NEDOは海外実証や補助金などいろいろなツールを持っていますので、何かしらお手伝いできると思います。 上野さん) ぜひ。私共は小さな組織なので、そうした部分でサポートいただけると非常にありがたいです。 吉田) 先ほども申しました通り、日本の少子高齢化、医療の問題は深刻ですから、そこに対する貴社の貢献に期待しています。引き続き頑張っていただければと思います。 上野さん) ありがとうございます。よろしくお願いします。
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